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幼女連れ狼 第五話 ~朱仁の過去・そして砂漠へ~

幼女連れ狼 第5話目 ~朱仁の過去・そして砂漠へ~

一人の士と一人の幼女。



朱仁は国が亡び、家族を亡くして心を失くしていた士。



一方の和織は幼いながら、人種的迫害にて感情を失くしていた幼女。



そんな二人が出会い、何かを感じて共に旅をすることとなったお話。



その次なるお話は・・・!



 



海を見るために竹林村へ訪れた朱仁と和織。和織にとって海や友達というたくさんの初めてを経験できた思い出深き場所となった。



そんな二人が次に向かうのは、朱仁の知り合いがいる砂漠の地。



「ちゅぎはどこに行くでしゅか?



和織が尋ねる。

乳母車を押しながら朱仁は少し微笑みながら答える。



「うむ、砂漠にござるよ。」



「さばく?」



「そうでござる。砂漠とは、一面砂に覆われた大地の事にござる。」



「しゅなでしゅか!海の近くにあったおしゅな場みたいなトコでしゅか?」



「うむ、確かにそうでござるが水がないうえに暑い場所にござる。ちと和織には厳しいかも知れぬが、しっかり準備して参ると致そう。」



「わかったでしゅ!あたちがんばるでしゅよ。」



そう話しながら砂漠への道を進む二人。



見た事の無い場所へと期待を膨らませる和織であるが、朱仁が何やら悩んでいる様子に気が気でならない。



原因と思われるのは、この間の海賊にて会った女の人だと思う。



たしか…、義妹と言っていたはず…。



「この間の女の人が気になってるでしゅか?



乳母車の中からふと朱仁を見上げた和織が唐突に聞く。ハッとした表情の後、朱仁は少し困った表情を見せてから大きく息を吐いた。



「ふぅ・・・。顔に出てござったか…。」



「あい。何か困ってるお顔でちた。」



「・・・、そうでござるな。和織にはまだ話してござらんかったが、少し拙者の話を致そう。」



のどかな田舎道を進みながら、朱仁がゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。



 



「元々、拙者はとある国で仕えてござった。



武家に生まれ、幼きより刀を手に生きて来た拙者はその剣技を買われ、元服前に初陣を果たし、ずっと戦いの中で生きて来たでござる。



戦乱の世でござったから、戦いの中で生まれ出るのは親を亡くした子供たち。到底、幼き子供だけでは生きては行けぬ世でござった。



拙者の仕えた殿は人情に厚く、身寄りのない子供たちを養ってござった。そんな子供たちはそれぞれ住む家を与えられ、世話係の者の下で暮らしていたのでござる。



丁度拙者の家は父が武術指南役でござって、殿からも厚い信頼を得てござった。それ故、我が屋敷の敷地内に子供たちを育てる家があったのでござる。



拙者の母上が世話役となり、屋敷の者たちで身寄りなき子供たちを育ててござった。身内の話でござるが母上は優しく、そうした子供たちを拙者と同じくらいに愛し、接してござった。



そんな拙者の兄弟のような子供たちの中に、同い年の少女がいたでござる。



子どもたちの中でも一際目立つほどに美しく、賢い人でござった。母に懐いておってよく手伝いをし、面倒見も良くてみんなからも慕われておった。」



「凄そうな人でしゅね!なんてお名前なんでしゅか?



和織が興味深げに尋ねた。その問いかけに一瞬だけ身を震わせた朱仁。だが、それを悟られまいと顔に笑みを浮かべながら答える。



「…結絆(ユズナ)…。今は亡き拙者の伴侶でござる。」



 





流石に和織はそれ以上は尋ねられなかった。「だった」という言葉からすでに他界しているとは察していたが、お嫁さんだったことから朱仁が悲しいお話をしてくれていると感じたからだ。



しかし、朱仁は続ける。



「…不思議な女性でござった。こう言うてはおかしいモノでござるが、屋敷の子どもたちにすれば拙者は主の息子。しかも戦場を生きる者でござる。近寄り難さを感じる者ばかりな中、結絆は恐れも何も無く、親しげに接してくれておった。彼女がいなければ、きっと子供たちとは仲良くなれなかったと思ってござる。…まぁ、余りに馴れ馴れし過ぎてケンカもしばしばやってござったがな…。」



何かを思い出したのか、含み笑いを浮かべる朱仁。今まで見た事ない表情に、和織はじっとその語りを見つめる。



「まぁ、誰に対しても明るく、気さくに接する事で、幼き子供たちも随分と懐いておった。



さて、このような子供たちの家にも決まりがござってな、年々増え続ける故に、子どもたちは齢16を迎えると、それぞれに独り立ちさせる規則がござった。もちろん、結絆とてその規則に従わねばならなかったのでござるが、その頃には自然と拙者と仲睦まじく皆から容認されておって、母上の半ば強引な提案によって結絆と縁を結ぶこととなったでござる。」



「お嫁しゃんでしゅね!」



両手を握りしめながら和織が目を輝かせる。やはり女の子なのだろう。お嫁さんという言葉に憧れを持っているようだ。



「うむ、良き妻でござった。…さて、結絆は結婚した訳でござが、彼女には妹がおってな、その一人が先日会った静羽(シズハ)なのでござる。



静羽は二つ年下で結絆にべったりとくっついておった。それが10歳を迎えた時には姉の手助けをし、負けん気が強かったからか男子ともよくケンカしておったでござるよ。されど、静羽がケンカする時は必ず弱い立場の者を守るためでござったな。」



そう言って足を止める朱仁。いつの間にか小さな集落に辿り着いており、朱仁は待つ様言って、店先で商人と取引を始めた。




(ん~、あの女の人はやちゃちぃ人だったでしゅか。だけど、あの時見た時は武器を投げてまちた!一体ど~ちてでしゅかね?)



乳母車で考え込んでいた和織。すると突然頭に何かを被せられた。



慌てて触ってみると黄色い帽子でした。



「砂漠は直射日光が強いゆえ、慣れぬ和織には厳しいはず。故にそれを被っておるが良かろう。それと…、」



和織の体に合った砂漠用の衣装も買ってもらえたので、早速着替える。

すると、隣に大量の水筒が入れられ、更には乳母車に竹が立てられ、内部を陰にするように帆が張られた。



「この先は熱さ対策が肝心でござる。喉が渇いたと思ったら、小まめに喉を湿らせるくらいで良いので水を含むでござるぞ。」



そう言って再び乳母車は動き始めた。



 



「さぁ、砂漠でござる。」



段々殺風景になっていた道を進むこと数刻。長い下り坂の前で和織は大砂漠を初めて見た。




「おしゅなだらけでしゅね!海と違って黄色いっぱいでしゅ。」



「うむ、そして砂漠の気温はとにかく厳しい。拙者は慣れておるが、和織は初めて故にがんばるでござるぞ。」



「あい!分かったでしゅ。」



元気良い返事の後、朱仁は乳母車の車輪に先ほど買っていた竹を敷く。また、帆の左右にも竹を細工し、幌を立てた。



「何してるでしゅか?」



「砂の上は乳母車の車輪だと、砂を噛んで進めぬでござる。故にこうして竹でソリのように滑るのでござる。また、この縦の幌は砂漠の風を受けて進み易くするのでござる。風下なればしまうでござるが、運よく追い風の様でござるからこれを利用するでござるよ。」



そう言うや砂の上を滑り始める乳母ソリ(仮)。



朱仁の言うとおり風は追い風で坂の斜面と相まって勢いよく進む。朱仁自身、竹のソリに足を乗せることでちょっとした船のようになっていた。



「ふおぉぉぉ!速いでしゅ。」



「うむ、この勢いならば早めに着けるでござろう。」



「それにちても、向こうに道があったでしゅけど、こっちで良いでしゅか?」



「あの道は安全でござるが、時間がかかり過ぎるでござる。砂漠は昼は熱うござるが、夜になると寒さがきついでござる。出来る限り体力を消耗させぬが肝要故、位置が分かってござるなら出来るだけ短時間で進むでござるよ。」



「むむむ、さばくは怖いとこでしゅね!」



照り返す太陽光。段々と熱気が二人にまとわりつき、早くも汗がにじみ出る。だが、和織は朱仁を気遣って不満は口にしなかった。そんな和織に朱仁は定期的に水を口に含むよう指示した。もちろん、自分も同じくして水を含んだ。



「それにしても、何だかさみちぃとこでしゅね…。」



一面砂だらけで、小山のような砂山がいくつもある。その合間を風が吹き抜けることで乳母ソリは恩恵を受けていた。



「水が無く、草木が枯れて人が住むには難しい地でござるからな。されどこうした地にも生き物は棲んでござる。そうした生き物たちには普通なのでござろうな。」



やがて朱仁は縦の帆を閉じる。同時に乳母ソリは推力を失くして止まったのだった。



「さて、ここからは風向きと違う方向にござる。されど距離は稼げたでござるから暫しの辛抱にござるぞ。」



「あい!」



砂の大地に足を踏みしめ、朱仁は乳母ソリを押し始めた。焼けた砂が足に熱を伝えて来る。履物がなければ到底火傷してしまっている事だろう。



初めてこの地に足を踏み入れた時は途中で倒れ掛けたほどだった。




「そう言えば、話の途中でござったな。



 やがて静羽も16になって独り立ちすることとなり、引き受けてくれる人が出来て国を出たのでござるよ。姉妹に対して愛情深い静羽でござったから、まさか結絆たちの元を離れるとは思ってござらんかった。



されど、その引き受けてくれる方と共に旅立ってからは時折手紙を送っておったから、元気に暮らしておると思ってござった。それがまさか、海賊だったとは…、結絆が知れば悲しむでござろな…。」



その言葉に和織も悲しい顔をする。知ってる人が悪いことをする人になってたら、悲しいだろうと言う思いからだ。でも、ここで和織はふと気付いた。



「ん~~~、しゃっきのお話聞いてたら、結絆お姉しゃんは他にも妹がいたでしゅか?」



朱仁の話を聞いている中で、他の子どもたちを含めて言ってるのかと思っていたが、静羽が姉妹に対してとの言い方や、結絆たちと言う表現から、他に妹がいるのではないかと判断したのだった。



それに対して朱仁は驚きの顔をしながら感心して見せた。



「ほぅ、気付いたでござるか。その通りにござる。結絆には静羽ともう一人妹がおったでござる。」



そして朱仁が前方に指差す。



「ほら、見えて来たでござろう。あれが目的地である登門旅館でござる。」



砂漠の中で巨大な建物があった。



「そしてそこに、結絆のもう一人の妹がいるのでござる。」



「おぉ~~!凄いおっきい建物でしゅね。あたち、こんなにおっきい建物は初めて見るでしゅよ。」



すっかり話の興味が旅館の雄大な姿に映り替わったことで、二人はそのまま旅館に向かうことになったのでした。






「さぁ、着いたでござる」



大きな門を通り抜けると、しっかりとした地面があった。しかも、あれほど暑かった気候が、門を通り抜けた途端に過ごし易い程の気温となり、多くの人が行き交っていたのだった。



「ここは人がいっぱいでしゅね!」



帆を下ろし、いつもの乳母車となってそこから辺りを見回す和織。様々なモノが興味深かったが、人に活気があり、見てるだけで楽しい気持ちになっていた。



やがて奥の旅館に辿り着いた時、その大きさに和織は目を見張ったままになっていた。その横で朱仁は門番の人に声をかける。



「相済まぬ、『卯美々』殿に取り次いで貰えぬか?」



「あ、朱仁殿。ご無沙汰ですね。分かりました、少々お待ち下さい。」



そう言って旅館内へ入って行く門番。



「うみみ?」



「そうでござる。結絆の末の妹。『卯美々』(ウミミ)にござる。この旅館の主人と我が父が旧友でござってな、卯美々の事をいたく気に入っておられた故、ここに来る事となったでござる。」



そんな話をしていると、旅館の奥が騒がしくなった。響いてくるのはけたたましい足音。それに伴い人々の驚きの声。



やがてその足音が旅館入口で止まると、感極まった女性の声がした。



「あっちゃぁ~ん!」



「あっちゃん?」



途端に驚愕の表情で声の方を見る朱仁と、聞こえた呼び名に首を傾げる和織。するとそこにいたのは豪華な衣装を身に纏った一人の女性。



「あっ!忘れてござった!」



珍しく慌てふためく朱仁に、入り口にいた女性が大きく跳び掛かる!




避けるのは容易い事だっただろう。しかし、それによって和織の乗った乳母車が衝突し、大惨事になってしまう恐れがあり、朱仁は仕方なくその女性を抱き止めることにした。



そして抱き止めるのに成功すると同時に、女性が抱きかかえる様に朱仁の顔を抱え込む。



「あっちゃん、会いたかったよ~❤」



ぎゅ~っと抱きしめる女性に対し、身動きとれずに女性の背中をタップする朱仁。



「ぐ、ぐるぅじぃぅごぁぅ~(苦しいでござる~)。」



抱え込まれて甘く柔らかな感触が呼吸を阻害し、更には頭部を力いっぱいに抱きしめらている為、流石の朱仁も危険な状態に陥りかけていた。



朱仁自身が離れて貰おうとタップするが、背中で受けるのそのトントンは、自分との再会に優しく接してくれてると女性が誤解してしまっている為に解ける気配が見えない。



そんな様子を和織の円らな瞳がじぃ~っと見つめる。



窮地に陥る朱仁!



そこに救いの手を入れたのは、幼くも威厳ある声だった。



「巴ちゃん、離れなさいっ!」



その声にハッとした巴と呼ばれた女性が朱仁から飛び降りる。そして解放された朱仁が片膝を付きながら激しく呼吸する。



「店の前ではしたないでしょ。それから直に出番なんだからすぐに用意しなさい。」



「うぅ~、久しぶりに会えたのに~・・・。」



叱られても、朱仁に構ってほしがる巴。それを見て呆れた息を吐きながら問いかける。



「兄様に披露しないの?



「ハッ!そうよね。あっちゃん、これから出番だからしっかり見ていってね!!



そう言い残して中へと戻っていく巴。



入れ替わって朱仁の下までやってくる二つの影。



「大丈夫です?兄様。」



ウサ耳を揺らせ心配そうにする少女と、その後を追う被り物をした三毛猫。




すると朱仁が顔を上げて微笑を見せた。



「助かったでござるよ。久々にござるな、卯美々。」



「はい、お懐かしゅうございます。」



笑顔で応える卯美々。そしてその紅い瞳が乳母車の上の和織に向けられた。



「初めましてだね。砂漠のオアシス『登門旅館』へようこそ。旅館のチーフマネージャーで、こちらの朱仁兄様の義妹、卯美々だよ。」



ニコッと笑みを見せる卯美々。



その笑みに、知らずと頬を染める和織であった。



 



以下、次回へつづくでしゅよぉ~!

  • 紫昏00 2017.7.1. 22:42
    姉さん相変わらずですな(;´ 'ω')
  • MSXturboR 2017.7.2. 08:17
    乳母車をソリへの改造、良いアイデアだね^^ストーリーもそうだけどアイテムの使い方にも関心させられましたw
    そして増えるキャラ・・・みんな個性が出てていいね !
  • タータミッツ 2017.7.2. 13:56
    道を外れて傾斜利用すると血風砂漠の渾天vs武林のところにまっしぐらな気が・・・。まあ、あっくんオーラで並みの武人じゃ近寄れんでしょうけどw
  • アクアリータ 2017.7.2. 16:19
    5話おめでとうでーす♪(^-^)゚⌒
    その乗り物がビジュアル付で紹介されるとはΣ(O_o)゚⌒
    帽子は反則です(≧∇≦)゚⌒❤
    あっくんの「引き」いいの撮りましたね⌒゚(=σσ)ホォ♪
    ↑内容に触れたいけどネタバレが怖くて我慢してるw('◇'*)゚⌒
  • K2taka 2017.7.2. 23:15
    ※たくさんの閲覧、「いいね!」&コメント、ありがとうございます。
  • K2taka 2017.7.2. 23:17
    >しぐれさん
     出すかどうか迷ったんだけど、当初から結絆を妻に設定してて、やはり出さないと後が怖い展開になりそうなので!
     一応、行動・言動は変わらないようですが、この作品的にはしてますw
  • K2taka 2017.7.2. 23:19
    >Mさん
     ありがとうです。砂漠に乳母車は無理だなーってことで無理やりこうしましたw
     キャラ増えていくけど、そこは楽しくできそうだから頑張りまーす。
     呑ん兵衛メンバー、出演よろしくです!
  • K2taka 2017.7.2. 23:20
    >タータさん
     勢力を入れるのも最初は考えてたんですが、あっくん無双しそうだし、
     何より本文から書け放しちゃいそうなので止めましたw
  • K2taka 2017.7.2. 23:24
    >アクアリータさん
     ありがとうです^x^
     せっかくなので加工してみましたwで、反則ですか?
     あの表情は、やはりいつものあっくんらしさを出そうと入れてみましたw
     あ、ネタバレとか考えなくていいですよw
     普通なら読み終えてからここ見ると思いますから、書き込んでくださってOKです^x^
  • ソソ 2017.7.25. 21:54
    遅まきながら読ませてもらいました!あのかわいいうみみんが大人っぽい口調!自分の作ったキャラとか劇中のキャラってぱっと見てどんな性格とかしゃべり方とか決まりますよね~!個性豊かなキャラ設定でこの先が楽しみですよ~!