幼女連れ狼 第参話目 ~少女と幽霊と竹林、そして海へ~
一人の士と一人の幼女。
朱仁は国が亡び、家族を亡くして心を失くしていた士。
一方の和織は幼いながら、人種的迫害にて感情を失くしていた幼女。
そんな二人が出会い、何かを感じて共に旅をすることとなったお話。
その次なるお話は・・・!
和織が未だに見た事の無い『海』を臨もうと、『竹林村』へと向かう朱仁と和織。
二人は竹林村へと通じる竹林の中を歩いていた。
それまでにも何度か盗賊が絡んでくるが、朱仁が威圧を放つことで無用なやり取りもせずに進むことが出来た。
「もうすぐ竹林村ござるぞ。」
「あい。」
朱仁の押す乳母車の上で、嬉しそうに返事を返す和織。
そんな二人であったが、朱仁は気付く…。
「どーしたでしゅか?」
その様子を悟って和織が問う。すると…、
「村が近いと言うのに、誰とも会わぬでござるな。」
朱仁の言うとおり、もう村までは半刻もしないほどの距離である。
いくら竹に囲まれた林の中といえ、ここまで人の気配がないのは異常である。
人だけに限らず、動物たちの気配すらない。そんな怪しさを感じていた朱仁の前にスッと気配が現れる。
咄嗟に身構える朱仁。和織もその気配に目を向ける。
二人が視線を向けた先には一人の少女の姿があった。
白と橙色のゆったりした衣装を着た色白な少女。背は高めで耳と尻尾があり、その背には剣を携えていた。
林の中からスッと出て来たその少女はゆっくりとこちらに目を向ける。
「何者でござる?」
朱仁は警戒をしつつ声をかける。するとその少女は鋭い視線で、
「この村に何の用?」
冷たい。そう感じさせる言葉だった。実際、和織がゾクッと身を震わせた。
「質問には応えぬでござるか。この村の守り人と見受けるでござるが如何に?」
朱仁は只ならぬ気配に質問を重ねる。それは相手が只ならぬ存在と察したから。生気の感じぬ存在。故に和織の身を案じる。
「もう一度聞くわ。この村に何の用?」
相変わらぬ質問。朱仁は気を強めようとした。すると、
「うみを見に来たでしゅよ!」
和織が声を発した。
「海を?」
「そーでしゅよ!おみじゅがいっぱいでしゅよ。」
拙い口調で応える。その返答に訝しげな表情をする少女。
「海ならば他でも見えるはず。本当は何なの?」
余りにも直球な返答に、少女は疑念を強めてしまった。
一方で和織の素直な返答を聞き入れない事に、朱仁は相手を危険な存在と認識し始める。
「和織の申した通り、海を見に参ったでござる。それ以外にはござらぬ!」
一歩前に出る朱仁。気当たりを一気に放出させる。
「うっ!・・・これほどの気当たり…。只者じゃない。でも、私が守らなきゃ・・・。」
実力差を感じさせられる相手の気迫に少女は怯む。でも少女は下がる訳にはいかない!
(私が村のみんなやあの子を守らなきゃ!)
得体の知れぬ二人組。しかも親子ではないのは種族の違いで分かる。いかにも怪しく感じるこの二人の素性が分からない以上、大事な友の居る村へ簡単に通す訳にはいかない。
一歩ずつ迫る朱仁。最早その気迫は少女を飲み込んでいた。
「素直に退くならば斬りはせぬ。されど、このまま怪しき術を掛けるならば容赦せぬぞ!」
今、朱仁と和織はある結界の世界へと呼びこまれている。
妖しい少女が朱仁の持つ只ならぬ気配を感じての事。だからこそ、朱仁はその原因が少女にあると察していた。ただ、その少女に殺気は無く、言葉を喋る以上は斬らずに済ませようと考えていた。
しかし、両者とも互いに譲る気は無い。少女は村を守ろうと考え、朱仁は和織に危害を与えられるかもと危惧している。
妖しい少女ではあるが、朱仁の腕は如何なるものでも斬ることが出来る。それほどまでに剣術を磨いて来ただけに結果は明らかであった。
「退かぬか?」
「クッ!」
互いに気を高める。少女はもはや斬られる覚悟の下、せめて手傷を負わせる事を考える。
「だ、だめでしゅよ!」
思わぬ様子に和織が止めようとした。その時!
「ロォンンンジィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
村の方から周囲を震わすほどの叫び声がした。同時に聞こえる駆けてくる足音。
目を向ければ小柄な少女が土煙を巻き上げて疾走して来る。
3人の目がそちらに向けられた。
そして勢いのまま走ってきた少女が辿り着く数メートル前で・・・、
足を滑らせた。
バッタァ――――ン!
見事?なほどに地面へとうつ伏せでヘッドスライディングをかます少女。
土煙を巻き上げて滑る少女は、そして丁度朱仁と妖しい少女の間で止まった。
「「「・・・・・・・・・・」」」
余りの事に声をかけられない3人。少女は少しもピクリとしない。
ようやく我に返った怪しい少女がそっと声をかける。
「リ、リリ?大丈夫?」
その言葉を待ってたかのようにうつ伏せだった少女は勢いよくガバッと身を起こすと、勢いのまま立ち上がり、大きく両手を開いて叫んだ。
「痛くないもん!それより、ロンジーをいじめるなぁー!」
身体の前面を土で汚し、鼻の辺りを真っ赤にした少女。そのクリクリした大きな瞳が朱仁たちをまっすぐ見つめているが、潤み、目尻に涙を浮かべていた。
(痛かったのでござるな)
(痛かったんでしゅね)
(痛いのね…)
三者三様に同じような思いを巡らせ、少女を哀れな目で見つめていた。
こうして、一触即発な状況は避けられたのでした。
「それはロンジーが悪いよ。」
「ごめんなさい…。」
ようやく疑いが晴れて村へと向かう4人。
走ってきた少女の名は『リリリンガル』といい、竹林村で暮らす元気いっぱいな少女だ。そして、先の剣を持った少女の名は『葉月』。かつて村の為に命を落とした幽霊らしい。今も村と仲良しなリリの為に村を守り続けているとのことだった。
尚、リリが彼女を『ロンジー』と呼ぶ件に関しては、
「ロンジーだからロンジーだよ」という彼女特有の感性の結果であり、葉月自身もそれを容認しているので追及はしない。
葉月から謝罪を受けて朱仁は首を振る。
「否。疑いも晴れた故にもう構わぬでござるよ。」
「…そう言って貰えると助かる…。」
幽霊と言う存在に対し、何も言わない朱仁。和織に至ってはそう言う人もいるんだろうという認識である。
一先ず難は逃れたが、朱仁は気になる事があった。
「それにしても、結界まで張って厳重な警備を行っているとは…、何か問題でもあるでござるか?」
朱仁の言うとおり、村の警備にしては余りに厳重すぎる気がした。その問いかけに二人は言葉を詰まらせる。
「どうしたでしゅか?」
そんな二人の表情に和織が伺う。すると葉月が説明を行った。
「最近、盗賊や海賊が急増してるの。今の所村にまでは攻め入ってないけど、いつ来るか分からないから…。」
硬い表情の葉月。それに対してリリは感情のままに怒り露わにする。
「全く、こっちは平和に暮らしてるって言うのに、いい迷惑だよ!来たら来たでとっちめてやるんだから。」
やる気いっぱいに気合を入れるポーズなリリ。それを友達が諌める。
「リリ、ダメだよ。下手な手出しは危険すぎる。」
「むむぅ~、僕だって戦えるよ!」
「…知ってる。でも、ああいう奴らは絡むと全てを奪うまで執拗に攻めて来る。だから村の外で足止めさせることにしてるんだよ…。」
友の言葉にリリは反論を止めた。納得はできないが、彼女の自分や村を思う気持ちは大事にしたいから。
「とーぞくやかいぞくって悪い人なんでしゅね?」
話を聞いていた和織が朱仁に顔を向けて尋ねる。それに対し頷きで
応じる朱仁。すると…、
「だったらあたちがやっつけちゃうでしゅよ!」
突然の申し出に村の少女たちはぽかーんと口を開いたままにした後、リリは大きな笑い声をあげた。
「あはははは、ダメだよわおちゃん。気持ちは嬉しいけど、危ないからやっちゃダメだよ。」
「危ないからやっちゃダメ、だよ…。」
葉月は呆れた様子で、言い聞かせる様に止める。
「危ないでしゅか!でも、負けないでしゅよ!」
それでも自己主張する和織。それを流石に朱仁が嗜めた。
「和織、ダメでござるぞ。お主の行動で他に迷惑をかけることもござる。何より、海を見に来たでござろう?まずは海へ行こうではござらぬか。」
それを聞いて和織が食いつく。
「そーでちた!あたちは海を見に来たでしゅよ!たくちゃんのおみじゅがあるらしいでしゅから、それを見に行くでしゅよ!」
話題が変わったことに、村の娘二人もそのまま便乗した。
「わおちゃんは海初めてなの?」
「あい!」
「そうでござるな。ずっと山奥の地にて過ごしてござるから、海に関心を持っているのでござる。」
そう話す朱仁と期待に胸ふくらませる和織。
どう見ても親子ではないと察する事は出来るが、和織の懐きようは朱仁の人柄を十分に証明している。そんな二人の関係が気になるものの、下手な詮索はやめることにした二人でした。
「それじゃ、僕が案内してあげる。」
リリが胸を張って言う。それに対して葉月は警備でここに留まると伝える。
「ロンジーは塩水だからダメだもんね!」
少しからかい気味なリリの言葉に、葉月がジト目で見つめて一言。
「今夜、寝てる間に耳元で怖い話をしてあげるよ…。」
そう言ってスッと姿を消していく。途端にリリが慌てて態度を改めた。
「あぁー!嘘嘘。ごめんロンジー、冗談だから許して―――!」
竹林の中、リリの悲痛な叫びが響いたのでした。
村に入った3人。入ってすぐ不思議な感じの男がリリに声をかけたが、それをあっさり無視して先を行くリリ。
涙目な男に一先ず挨拶だけを交わして3人は海岸へと進む。
ゆっくりな足取りの朱仁を置いて、少女二人は一心不乱に砂浜へと向かった。
「ふわあぁぁぁ~!しゅ、しゅごいでしゅ。」
青空に太陽が燦々と輝く下で、青い海が地平線の彼方まで
「えっへへ~、スゴイでしょ。」
「あい、おっきぃでしゅね~!」
大きな眼を更に真ん丸にしながら海を見つめる和織。その横でリリが胸を張って自慢する。自分の村だけに地元愛が強いのだろう。
「和織、海の水は塩辛いゆえ、飲んではならぬでござるぞ。」
「しおからいでしゅか!」
聞くや否や、海に指を付けて舐める幼女。当然…、
「ぺっぺぺ、からいでじゅ~…。」
「全く、言った傍から…。」
呆れ顔の朱仁に対し、リリは愉快そうに笑っていた。
「でも、飲まなくても泳げるんだよ。わおちゃん。」
そう言って服を脱いだリリは海へと入って行く。
「ワオちゃんも一緒に泳ごー。」
足を海に浸して誘うリリ。その言葉に和織は一瞬戸惑うも、すぐに朱仁に目を向ける。
「行ってくるが良かろう。せっかくの遊泳の誘い、楽しむがようござる。」
優しげに言う朱仁の言葉に、和織も服を脱いで海へと入って行った。
「決して飲まぬよう気を付けるでござるぞ!」
そう言いながら脱いだ和織の服を拾ってたたむ朱仁。
それから暫くの間、和織は初の海水浴を思う存分楽しんだのでした。」
楽しげに波に戯れる幼女2人。それを見て和む士が一人。
そんな彼らを虎視眈々と狙う不逞の輩が、少しずつ忍び寄っていたのでした。
そのお話はまた次の機会に。
※リリちゃん、ロンディワルさん、ご協力感謝です。
さて、今回のお話は後編に続けます。
お二人様、また、ご協力お願いします。
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これは癒しやξ*´ω`*)ξ
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ふぉぉぉぉぉおお(*´Д`)最高の物語ありがとうございます!やっぱり自分のキャラが出てるのはうれしいですね!
後半もがんばりますよ!(最近リア充というか仕事充なのでいろいろ時間なくてこまってますが・・w -
これは後編が気になりますねぇww
楽しみです! -
色調補正も含めて綺麗に撮ってもらえて感謝です。
第一印象は、集中線格好良いw アラレちゃんみたいw
いずれ4人で並んで街道を歩いてみたいですね。
松林寺のあたりが綺麗でよさそう。
そしてはたして誰が二人を狙うのか・・・物語が気になります。 -
ちょっとリタさん、ネタバレしないでよw
後半気になるねー((o(´∀`)o))ワクワク
不逞の輩、誰なんだろ… -
あ、そかヽ(‥ヽ)⌒(ノ‥)ノワー 書き直しw('◇'*)゚⌒
な、なんとΣ(O_o)゚⌒「○○○○」の世界と繋がってたんですかっw('◇'*)゚⌒
某キャラ設定を利用して
ストーリー導入をスムーズにするとは…⌒゚(ー゛ー;゚⌒で、デキルっ
後編も楽しみです(≧∇≦)゚⌒ -
※たくさんの閲覧、「いいね!」&コメントありがとうです^x^
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>しぐれさん
癒されてね~(*´ω`*) -
>リリちゃん
今回はご協力感謝です(人''▽`)ありがとう☆
お話はリリちゃんの作品の元気な感じを出したかったので、冒頭はあんまりな感じかもですがご容赦ください。
そして、この物語は後編を用意しています。改めてご協力のほど、よろしくお願いします。
急いで撮影しないからね。 -
>HiGanmaさん
閲覧ありがとです^x^
次回、戦闘パートを考えていますが、お気に召していただけるよう頑張ります。 -
>ロンディワルさん
今回はご協力、感謝です(人''▽`)ありがとう☆
色々撮らせて頂きましたが、あれもこれもと挿絵的に使おうと思ったら、いつものマンガ風になっちゃうんで控えました。
その代わり、最初の葉月ちゃんからあっくんと向き合うまでは決壊を意識してホワイトバランスを加えてあります。
それをぶち壊すリリちゃんなのですがw
リリちゃんの勢いは集中戦を取り入れるつもりでしたが、あの土煙は大変でした。
どうやったらいいかと色々試しながら、何とかそれらしく作れましたw
町中も考えてましたが、そこはまた改めてお願いします。
次回は戦闘パートを予定です。よろしくお願いします。 -
>虎徹さん
?アクアリータさん、何か書いてたのかな?(見てない)
またあとで教えてねw
そして後半は、戦闘パートを予定しています。
楽しんでいただけるように頑張ります! -
>アクアリータさん
何を書いてたのかな?気になりますね~w
さてさて、今回のお話はもう少し後に持ってこようかと考えていましたが、
せっかくリリちゃんの作品のお話がお休み取っているとのことなので急遽仕上げました。
で、せっかくなので前後編に跨っちゃおうと、また思い付きのまま後編へ…。(ダイジョウブダヨネ?
17号に関しては、使ってみたかったというだけの出番ですw
ちなみに当初は素通りするのを泣いてる姿を考えてました。
後編も二人の魅力を出していけたらと思ってます。 -
こうゆう物語考えれるのは凄いと思います!
自分全くこうゆうのはセンスないので…( ; ゚Д゚)
じっくり読んじゃいました!
後編も楽しみにしてますよ~!
不逞の輩が気になる… -
おお@@ 胸熱な展開ですな!!!
-
文と挿絵で凄く面白く読めました!w
朱仁さんと和織ちゃんコンビが凄くいい!
最後まったりな雰囲気で和めたけれど
次回の不逞の輩...気になる...!
-
>LAGNA005さん
ありがとうございます。
自分が好きなように書いてるだけなんで、センスがどうといわれてもピンとこないのですが、
気に入っていただけたら何よりです(*´ω`*)
後半、どうなるかは今から考えてます。
ん?なんだか不逞の輩にみんな同じような反応? -
>ハートさん
熱い展開になるかなー?
でも、次回は頑張って戦闘パートやりたいです! -
>大佐殿
見やすくできたなら何よりです。
このお話書くにあたって、このコンビがなぜか思いついたのw
今回は楽しく参加してくれたお二人と和やかにしてみました。
そして最後の言葉は、何気にみんなハードルあげてますよね…? -
今回は鬼気迫るというより、柔らかな感じでストーリーが読めましたw
登場人物が知ってる二人だからかな(笑
不定の輩・・・もしや宇〇刑〇 おっと、ネタバレになるかもしれないからここまでにしておこう -
>Mさん
柔らかなお話にしました。だって、リリちゃんのお話に似合わないでしょw
リリちゃんの元気さを出そうと最初はああいう感じにしてみましたw
あら?宇宙けーじをそういう風に見てるのねw
ちなみに今回はそう考えてませーん(*´ω`*)