幼女連れ狼 第1話 ~旅立ちの刻(とき)~
一人の士と一人の幼女。
朱仁は国が亡び、家族を亡くして心を失くしていた士。
一方の和織は幼いながら、人種的迫害にて感情を失くしていた幼女。
そんな二人が出会い、何かを感じて共に旅をすることとなったお話。
その次なるお話は・・・!
二人は歩いていた。
共に旅をすることとなったが、互いに元は赤の他人。
朱仁自身は寡黙な性格であり、和織は生まれながらに自分から何かを発することをしてなかった。
だから必然的に二人は何も語らずに歩く。
そんな中、時折朱仁は和織に気遣いの声をかけるだけ。
「疲れてはござらぬか?」
「だいじょうぶでしゅ。」
この様な会話とも取れぬ声の掛け合いだけで進む二人。
(むぅ・・・、これはいかん)
不味いと感じながらもその状況を打破する一手を打てるほど、朱仁は器用な人間ではなかった。
そんな中で二人は村にやってくる。
ノスタルジックでのどかな雰囲気であるものの、その広さは今まで集落しか知らない和織にとって、驚きの場であった。
周囲を色々見回す和織。その驚いたような顔は流石の朱仁でも察しない訳がない。
「和織はこの様な場所は初めてでござるか?」
「あいでしゅ。……」
上の空な返事。その大きな眼には様々なモノが映る。
幼女たる年相応の態度に、朱仁は微笑みを漏らす。そしてふと思う。
かつて自分の愛した妻が、近所の童たちと共に遊んでいた様子を。
(そういえば、子どもたちに人気がござったな…)
身分など関係なく色んな人達に優しく接していた妻。特に子供たちにはお菓子などを作っては食べさせていた辺り、子ども好きであったのだろうと今更ながらに気付く。
「どうちまちたか?」
思いに更けていたが、その拙い和織の問いかけに我に返る。
「む、あぁ、いや少々思い出していたでござる…。そうでござるな、せっかくでござるから何か美味いものでも食うことに致そう。」
「おいちぃものでしゅか!」
幼い顔に喜びが浮かぶ。しかし、すぐにその顔は不安な表情へと変わる。
「?如何したでござるか?」
「…あたち、なにもお仕事してないでしゅから食べられないでしゅ。」
今まで何かをすることによって食事を与えられていた和織。今までそうやって過ごしてきたためにその考えは易々と変わるモノではない。しかし、まだ幼い和織のような子供に仕事を与えることこそ間違いなのである。風習や言い伝えなどで和織自身を人と見なしてこなかったあの集落の者たち。そのような考えしか持てないと言えばそれまでであるが、色々と知識を得ていた朱仁にしてみれば愚かな者たちとしか映らなかった。
「良いか和織、そなたは新しい生活を始めたのでござる。あの集落での考えは捨て、これからどの様な生き様を進むか考えるでござるぞ。
お主が一人前の人として進めるまでは拙者がお主を養おう。贅沢はさせてやれぬが、まだ子供のお主が働く必要は無いでござる。」
「で、でも~・・・」
子どもゆえの頑なさから納得は出来ない。何より、さっきは命を救ってくれた上、美味しいおまんじゅうを食べさせてくれたのだ。
そして悲しかった自分を慰めてくれた人。
和織にとっては会って間もないと言うのにたくさんの恩があるのだ。
その恩に報いたいと言う心が、何かをして恩返ししたいと言う気持ちになっていた。
「ふむ、これは拙者の考えでござるが、人が子供を育てるのは愛情ともう一つあると考えてござる。」
「???」
和織が首を傾げる。その様子に微笑む朱仁。
「それは『願い』でござる。子供が健やかに、また立派に成長することを願うでござる。然るに子どもに様々な経験を与え、時には厳しくも愛情を持って接するものだと考えてござる。
ならばこそ、和織も今は様々な事を学び、いずれ人に優しき立派な大人になることを願うでござる。」
そう言って朱仁は和織の頭に右手を載せて、よしよしと撫でた。
「分かったでしゅ!あたち、絶対立派な大人になるでしゅ!」
「うむ、さ、それでは美味いものでも食しに参ろう。」
そして二人は村の食事処へと向かうのでした。
今までまんじゅうしか食べた事の無かった和織。そこで知った料理に和織は言葉を失くして黙々と食べていた。
ラーメンに鶏のから揚げ、そして特撰豚まん。
最も売れ行きの良い3品を注文したわけであったが、「いただきましゅ」と言った後、和織は言葉を話さなかった。
一生懸命に不慣れな箸を動かしながら食べ物を口に運んでは、休むことなく『まぐまぐ』と咀嚼を続ける。
がつがつと言う荒い行動ではないものの、一心不乱に食事する様は周囲の人々の注目を浴びていた。
「美味いでござるか?」
問いかけに頬一杯に咀嚼しながら和織は瞳を輝かせて頷く。
「それは結構。この唐揚げとまんじゅう、食えるなら皆食って良いぞ。」
小さいながら一生懸命に食べる様子は実に微笑ましく、屋外だけにその前を通る人々が皆、ほんわかと頬を緩めながら歩いて行くと言う珍事が起こっていたのでした。
そして二人は村でいくつか旅の支度を整えました。
「旅ゆえに動きやすいものが良かろう。あれは大事に取っておくとして、好きな服を着るがよいでござる。」
新しい服に心躍る和織。育った地で貰った綺麗な服はお店の方で丁寧に手入れされた後、持ち運べるように封入して貰いました。
それまで、朱仁自身特に身支度する必要を感じていなかったが、和織と二人となればそれなりに旅の道具を用意しておく必要がある。
そうした道具を考慮すると、必然的に荷物は多くなってしまう。
とすればそれらを収納して移動する術が必要となってくるのだが、色々見て回るに馬などは無粋。二人でゆっくり景色などを見て歩くと言う考えから、朱仁自身が操作できるものが好ましい。
そうした考えから…、
「なんでしゅか?これは。」
「手押し車にござる。荷物をこの中に入れ、また和織もこの中に乗るでござるよ。」
木でできた4つの輪っかの付いた大きな箱。箱の奥に用意した旅の携帯用品を入れ、箱の前の方の空間は和織の乗れる場所を用意した。
「あたちも歩けましゅよ?」
「うむ、歩ける時はそれで結構。されど、場所によっては子供には危険な場所もありうるのでござる。また、疲れた時などもこの上で休めるのでござる。」
「ん~、あたちもいっしょぉけんめ~歩くでしゅよ!」
和織自身は、朱仁に車を押してもらう事に申し訳ない気持ちがある。逆に自分こそ朱仁に楽をさせねばと、そんな恩義に厚い考えをしているのである。しかしいくら元気な和織でも、大人の朱仁とは歩幅も違えば体力も違う。そのためにも、乗せていくと言う手段が有効なのである。
(むぅ、和織の性格では拙者に申し訳なく感じるのでござろうなぁ…)
そう感じつつ、ふと思いに至る。
(そういえば、亡き妻は子供に何かをするよう頼む時、その子の責任感を募らせてござったな!)
「ふむ、然らば和織に頼むことがござる。」
「何でしゅか?」
「ここにある荷物は、拙者と和織にとって非常に大事な物でござる。さればこれが盗られるなどあっては非常に困るのでござる。」
「そうでしゅね!」
何度も頷きながら和織は肯定する。
「拙者は車を押すので手いっぱいにござれば、これをきちんと見張っておくのが和織の仕事にござる。そのためには、和織は近くでいて貰いたいのでござる。」
「むむ、荷物を取られないように見るでしゅね!分かったでしゅ。あたちは盗られないように気を付けるでしゅよ!」
元気いっぱいに応える和織。子供は大人に頼られるという事に自分が大人に認められていると言う感情が生まれ、それを完遂して褒められたいと言う欲求を持つ。しかも和織はそう言う風に人の為に何かするべきという考えを持って育った。そう言う感情を焚きつけるような気もするが、それで納得してもらえるのだから、今回ばかりはそれで進めることにした朱仁でした。
あらゆる身支度を終えた二人。
「では参ろうか和織。」
「あいでしゅ、おちゃむらいちゃま。」
「む?」
笑顔で返した和織の言葉に、朱仁は違和感を感じた。
「和織、拙者の事は様付などせんで良いでござるよ。あけとと呼んでくれても構わぬでござる。」
「そう言う訳にはいかないでしゅよ。」
「ならば、好きな呼び方をしてようござる。お互い旅の仲間にござれば、気軽な方がようござるよ。」
「う~、そう言われるとむじゅかちぃですねぇ。」
「まぁ、おいおい考えると致そう。では、出発でござる!」
こうして二人の旅が幕を開けたのでした!
つづく
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2話目のリリースをおめでとうございます。シリアスな味わいは他には無いですね。
さらっとテーブルの上の唐揚げや手押し車の加工が自然ですね。
今のところ二人旅ですが、これからの登場人物との絡みも気になります。 -
ベタに味一門と絡むかと思ったら意表を突かれたカンジがw
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これは良い物語ξ*´ω`*)ξ
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※ たくさんの閲覧、「いいね!」&コメント、ありがとうございます^x^
>ロンディワルさん
ありがとうございます^x^
シリアス…、うん、ソウデスネ…。(このタイトルからしてあまりシリアスにな印象がw
確かに、文章的にはマジメな内容で進めてるのでその方向性がいつ崩れるかと冷や冷やはしてます。
(だって和織なんですよ!)
SSに関しては、本当は和織が一心不乱に食べてるアップが欲しかったのですが、技術不足で断念orz
出来る範囲で頑張りました。
先に言うと、今の予定ではずっと二人旅です。そして、いろんな人々と出会いながら成長させられたらなと
願っています。(竹林の集落に行って、元気な少女とその友達の幽霊の少女とも出会うつもりです。)
>タータミッツさん
毎度の卯美々の作品ならその路線だったかもですが、今回はさらっとやらせてもらいましたw
しかし、いつもの流れを呼び込む予定は大いにあります!(喜怒哀楽は必須!
>紫昏00さん
ありがとうです^x^
おちゃらけな性格ですが、実はこういうのも書けるのですw -
ぶ、文達ですねぇ⌒゚(*´-`)うまいぃ♪
どうしてこゅ文章がスラスラと書けちゃうのやら⌒(//,//)ゝ
タイトルからして「するでしょう」って期待してた以上の「あらゆる身支度」Σ(O_o)゚⌒w
上手く合わせましたね(≧∇≦)゚⌒一瞬ドコにそんな箱があるのかとビックリしました
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>アクアリータさん
ありがとうございます^x^
思い描いた形がそのままになってるだけです。
まぁ、正直な話乳母車の登場はSS加工の大変さを自分で増やしてしまったと嘆いているんですがw
ひとまず、シリーズ化しちゃったので、色んな方を巻き込みながらお届けしていきますw -
ちゃん!
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>パプリカ☆さん
その呼び方も考えたんだけどね~w
もう少し考えてみます^x^ -
おお!続編おつかれさまです!いいですね!物語も加工もすばらしい!あれですかね・・そろそろ竹林村にきますか?w(こちらの構想はすでにできてますw
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>★ノノ★さん
3話を今作ってまして、4羽目くらいに向かおうかと計画してまーす。 -
読んだよーw
前話に続き、良いストーリーだね。。魅入っちゃったよ^^
なんだか、かなりの長編になるのかな・・・期待w -
>Mさん
おそくなっちゃったwこっちももう少し見に来なきゃね!
お話はできるだけ優しい内容にしたいな~って思ってます。
ちなみに、数話分は頭の中に案があるので、それくらいは進みそうです。(和織の冒険は20話構成でした!)