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月詠のおはなし~巴ママとの出会い~



 



私の月詠という名は、とある女神さまのお名前だそうです。



私が生まれ育ったのはとある田舎の村で、幼かった私は村の名前や場所ははっきりと覚えていません。



ただ、覚えているのは優しく温かな両親の愛情と、あの時怖かったと言う恐怖だけです・・・。



 



そう、物心つき始めた頃の私は、両親に連れられて都にやって来ていました。





多分、両親のお仕事で連れて来て貰ったんだろうと思います。



温かで優しい父と母の手を握ってはしゃいでいたあの時、





突然、空が暗くなり、怖いお化けがいっぱい都に現れました。



訳も分からず、両親と一緒に逃げる私…。





 



でも、逃げる人波の中で知らぬ間に私の手は両親と離れてしまい、怖さと心細さで泣き叫んでいました。



「ぱ~ぱ~、ま~ま~。」



両親を呼んでも周りの喧騒で届く訳も無く、トコトコと泣きながら歩く私…。





そんな状態だと、当然お化けに気付かれてしまいます。



泣く私を目掛けて迫ってくる、大きな大きなお化け。



そんな巨大なお化けに気付いて、怖くて逃げることも出来なかった。



只怖くて、両親に助けを求め、大声で泣く私。



そんな時でした。





突然、私は温かさに抱きかかえられました!



そして、迫っていた巨大なお化けは紫の閃光によって一刀両断!!



そこでかけられた優しい言葉。



「大丈夫?怪我はない?



とっても優しい言葉に、私は恐怖で怖かった事と助かったと言う安心から、再び大声で泣きじゃくりました。



でも、そんな私を優しいこの女の人はそっと抱き締めてくれたんです。



「はい、怖かったよね。もう大丈夫だよ。」



ポンポンと私の背中を叩く手。そして頭を撫でてくれる。



もう怖いのはいない! そう感じさせてくれました。



そんな私をあやす一方で男の人の声がしました。



「大丈夫でござるか?



「ええ。安心して泣いちゃったみたい。」



「うむ、それならば僥倖でござった。然らば拙者、かような悪事を終わらせて参るでござる!姉上はその子や他に逃げ遅れてそうな者たちを頼むでござる。」



「ええ、向こうに女将さんがいるから合流するわ。あっくんも気を付けて!」



「御意!



そう言って離れて行く男の人。



そんなやり取りを聞いているうちに泣き止んだ私は、この女の人と改めて顔を会わせた。





とっても綺麗な人だった!



「泣き止んだのね。私は巴。お名前聞かせて貰えるかな?



 「…月…。」



「月ちゃんね。よし、それじゃあここは危ないから向こうに行ってみようね。一人でここにいたら危ないからね。」



「パパとママ、いなくなっちゃったの・・・グスッ」



「逸れちゃったんだね。ほら、泣かないで!私と一緒にパパとママを探しに行こう。」



こうして私は巴ママと出会い、そのまま安全な場所へと連れて行って貰いました。





その間、ずっと私を抱き締める巴ママの優しさに、私は怖いと思わずに済みました。



 



やがて空が蒼天に戻り、都の大惨事は幕を閉じました。





私は都の役人の下、迷子として暫くは施設にいました。



でも、数日経っても私の両親は見つからず、私は孤児と認定されました。



でも、両親がいなくなった事を認めたくない私。



(きっと、パパとママが近くにいるはず!)



そんな事を思った私は勝手に施設を抜け出して都中を探しに行きました。





きっとパパやママに会えると信じて…



でも、広大な都を小さな子供の足ではそれほど遠くへはいけません。



ましてや混沌とした都の中、子どもの声に耳を貸す人などいません。



更には治安が落ちた状態。孤児を狙った人攫いなどが出没します。



もちろん、それは私自身にも迫って来ました。



「おじょうちゃん、パパとママを探してるのかい?



突然声をかけられて振り向く私、にこにこと笑う男の人でした。



「うん。パパとママ、いないの…。」





泣き出しそうになる私、それをこの男の人は慌ててあやします。



「あ~っと、泣いちゃダメだ!ほら、おじさんがパパとママを知ってるから連れてってあげるよ。」



「ほんと!



「あぁ本当さぁ~。さぁ、おじさんと一緒においで!



「うん!」



喜んでそのおじさんの手を取ろうとしたけど、その手から感じた嫌な感じに私は手をひっこめました。



「ん?どうしたのかな?さぁ、パパとママが待ってるよ。おじさんと行こう!



「…うん。」



嫌々ながら、両親に会えると言う思いに私はその手を取りました。



その時です。



「まちなさい!」





聞き覚えのある声が聞こえました。その声の人は予想通り巴ママでした。



巴ママが怒った様子で男の人に言います。



「その子をどうするつもりなの?



「この子のパパとママに会わせるのさ。」



「本当にいるの?そもそも、その子の名前は知っているのかしら?



「くっ!」



突然私は抱え上げられ、走り出す男の人。



でも、予想していた巴ママは一瞬の間に男の進路を塞ぎます。



「くそっ!武人か?!





男はそう言うと刃物を取り出し、私の頬に宛がいました。



「っ?! どうするつもり!」



険しい視線の巴ママ。そんな巴ママにニヤリと男が言います。



「大人しくしな。でないとこの可愛いお顔に傷がつくぜ。」



「このっ卑怯者!



手出しできない巴ママ。



 



「どうせこの子の両親なんて、これだけ経っても現れないんだから死んでいるさ。もしくはこの子を見捨てたか。ならば、この子を有効に扱ってやろうってんだ。何が悪い!



自分勝手で非道な言葉。



「何て言い草…、ましてや子供の前でなんてことを言うの!



巴ママが凄く怒った。でも、それ以上に私は信じられなかった。



「パパとママにもう、会えないの…?



呟くように尋ねる私に、男の人は嘲笑う様に答える。



「ああ、残念だろうが諦めな!その代りに俺がい新しい生活を与えてやるよ!



それを聞いて巴ママが動こうとした瞬間、私の中で何かが弾けた!



「うわぁああー!」





体内から迸る強大な内功。その圧倒的な内功に男の人は私から手を離して吹き飛んだ。その際、刃物が私の頬を斬り、一筋の傷が付いてしまった。



驚くも、一瞬で巴ママは男を無力化(関節を抜いて動けなくした)してすかさず私を抱き締める。一気に放出された内功だが、長続きせず私が気を失うと同時に静まったのだった。



「…!傷が!



私の傷を確認する巴ママ。そんな中、気を失った私の頬の傷がみるみるうちに治癒し、無かったかのようにその痕さえ見えなくなったいたのだった。





「…そうなのね。月ちゃんもまた宿命を背負っているんだね…。」



どこか寂しげな感じで巴ママは呟きました。でも、眠る私はその言葉が聞こえる訳でなく、只々優しい温もりの中で安らかな寝息を立てていたのでした。



 



それから数日後、私は都の施設にて過ごしていました。





身寄りのない私はそこにいるしかできなかったからです。



結局、あの男の人が言ったとおり両親は見つからず(実際は朱仁が発見するが、すでに虫の息で最期を看取った)私は孤独の身となったのです。



でも、時折巴ママが会いに来てくれていたので、それほど寂しくはありませんでした。



そんなある日の事、




「あっくん、この子を私の娘として引き取ります。」



?!なんと!



私を前にして、巴ママとお侍さんがお話をしました。



「この子とこうして出会ったのも何かの縁。この子の中にある巨大な内功は、きちんと教えてあげないと大変なことになるわ。」



「それは分かるでござるが、ならば内弟子として…」



「ダメ!この子にはまだ親の愛が必要な年なのよ!私たちみたいな思いをこの子にさせられる?



「くっ…。」

互いに重い面持ちになってました。そこで、



「?…ママ?」



私の質問に、巴ママが笑顔で頷きます。



「そうよ。本当のご両親が行方不明になっちゃって、月ちゃん一人にならないように、私がママになりたいなって思うの。ダメかな?」



私はもう、両親に会えないとあの男の人から聞かされて諦めていた。



でも、ここにとっても温かく、そして優しく私を救ってくれた人がいる。



そんな人が私のママになってくれると知って…、



「ママ。」



「なっていいかな?」



「ママ。」



「…そうだよ。」



「ママ―!」



「はい、月ちゃん。」



勢いよく抱き付く私。そんな私を優しく抱きしめてくれる巴ママ。



「これからは、私を母親と思って、頑張って生きてね。」




「ママ、ママ、ママ…。」



「・・・、これでは何も文句など言えぬでござるよ…。」



抱き合い、涙を流し合う二人の傍で、侍は天を仰いだ。



 



暫くして、



「それじゃあ月ちゃん、月ちゃんはこれから私たち姉弟の池内を姓とし、名前は月詠。『池内 月詠』これから月詠ちゃんはそう名乗ってね。」



「月詠?」



「月ちゃんの本当のお名前は月詠だったんだね。着ていた服に刺繍があったよ。ご両親の付けてくれたお名前だもんね。」



じんわりと涙が溢れてくる。両親の付けてくれた名前と分かって、胸が熱くなりました。



「然らば拙者は叔父でござるかな?」



「!・・・パパでもいんじゃないかな?」



「ぶはぁっ!な、何を言いだすでござるか!」



「月詠ちゃん、あっくんの事は何て呼ぼうか?パパでも良いんだよ❤」



「何気に誘導してござらぬか?」



そして私は巴ママに向かって



「巴ママ。」

「はい^^



そしてお侍に向かって



「あっくんパパ。」

「…グフゥ~

こうして、私は池内 月詠となった。





 



 



それから私は巴ママに付き添って登門旅館で過ごしました。



それから数年のうちに、私も色んなことを覚えました。



旅館でも今では配膳係として働く様になり、武功も幾つか使えるようになりました。





そんなある日、女将さんが世間を知る旅をするようにと仰られました。



それは巴ママも賛成していて、私は旅立つ決心をしました。



 



そう、この命と心を救ってくれた巴ママのご恩に報いるためにも、この世界で困った人を助けられる人になる!





その信念を持って、私は旅立つのです。


おわり

  • ロンディワル 2016.2.15. 21:48
    大作ですね。読み込んでしまいました。
    1つのシーンを作るのにかなり手間もかけているように見受けられます。
    池内ファミリーのこれからの物語を期待してしまいます。
  • 紫昏00 2016.2.16. 19:09
    良い御話ですねξ*´ω`*)ξ

    おもわず目から水が( ノД`)
  • アクアリータ 2016.2.16. 20:37
    ぅゃや…お話面白かったです。思わず読みふけりぃ
    あっくんパパ>盛大に⌒゚(^-^)キャハハ
  • ワンぱっくん 2016.2.17. 01:43
    多くの閲覧、誠にかたじけのうござる。
    また、いいねやコメントの数々、心より感謝申し上げ候。

    ロンディワル殿
     話は直ぐに出来上がっていたでござる。
     ただ、それぞれの場面に適したSSを用意するのに手間がかかったでござる。
     (姉上が破壊された都までメインを進めるのに時間がかかったでござるよ!
     もう少し、加工出来ればと思いながら、この形になったでござる。
     これからもよろしくお願い申し上げ候。

    紫昏00殿
     しぐれ殿、もう身体は良うござるかな?
     月詠と拙者たちとの出会いについて語らせて頂いたでござる。
     水でござるか・・・。目薬さされるが良いでござるぞ!

    アクアリータ殿
     拙い話を忝いでござる。
     くっ!うぅぅ・・・月詠は絶対に変えようとしないでござるよ!ぐぬぅ